ちょっとバズったブログの裏側

つい先日、「2億円を溶かした」というブログを書きました。

株式会社Meshとしては初めてのブログでしたが、想定以上に反響があり、公開日から3日で1.5万件の閲覧がありました。それだけの注目を頂いたので、文字数の都合でカットしたものや、特に反響があった部分の深掘りを裏話としてこちらの記事にまとめたいと思います。前回の記事で最も読まれた「広尾と恵比寿の単価の違いに打ちのめされた」パートのもう少し踏み込んだ話は本記事後半に書いています。

なお、本記事は裏話なので、前回のブログを読んでいただけると、より一層楽しんでいただけると思います。

情報ダダ漏れのGopuff

前回のブログで「当時のクイックコマースの勢いは凄まじく、アメリカのGopuff(クイックコマースの会社)は評価額が8ヶ月で3.8倍へ上昇した」という話をしました。

リード投資家のCoral CapitalのJamesから「ちょっとしたtipsになるけど、スタートアップのファウンダーが出てるpodcastはリサーチにいいよ。記事では言わないような機微な情報もべらべら喋ってること結構あるから。Gopuffのこれとか聞いてみ。」と言われました。

聞いてみたところ、たしかにめちゃめちゃ機微な情報をベラベラ喋っていました(爆)。以下、一部抜粋です:

- フィラデルフィア、シカゴ、ボストン、テキサスの店舗はキャッシュフローが黒字。一方、その他の新規市場は赤字で、追加投資が必要。
- 英国の平均注文単価は現在約20ポンド。これは米国より10%以上低い。
- 一部都市では、1店舗当たり1日500〜800件の注文を獲得。
- 3カテゴリー以上購入した顧客は、1〜2カテゴリーの顧客より年間購入額が600ドル多い。
- 1回目→2回目の離脱率が最も高いため、初回注文から14日以内の再注文を促進している。
- 3回目の注文に到達した顧客コホートの、その後12か月間のリテンション率は97〜98%。

事業上とても大切な情報がゴロゴロ転がっていたので、このリサーチ手段はとてもよかったです。また、投資家として質の高い情報を仕入れる手段を知っているJamesもさすがだな、と思いました。リサーチをする皆さん、ぜひpodcastも活用してみてください。

フィンランドの因縁

前回のブログで、「私がフィンランド育ちであり、その人脈を活かして欧州に深く入り込んだリサーチを行った」と書きました。具体的にはとあるダークストアを運営している会社の倉庫を実際に見せてもらったり、数多くのユーザーにも直接インタビューをさせてもらいました。

一方、私の高校時代の友人の友人がフィンランド発フードデリバリーのWoltのVice Presidentで、Meshの資金調達が決まった直後にWoltが日本でもクイックコマースを始めるということになりました。そして日本進出のヘッドが彼女でした。自分にとってはまさかフィンランドから遠く離れた日本という地で友人の友人とビジネスで戦うことになり、正直やりにくいな〜と思っていた部分もありました。

私の友人の友人のMarianne Vikkulaです
私の友人の友人のMarianne Vikkulaです

なお、彼女はあの有名なスタートアップのカンファレンス “Slush” のCEOを2016-2017年に務めており、2022年には日本でも人気のフィンランドのブランドであるmarimekkoの取締役になり、2025年にはWoltのCEOになりました。フィンランドのビジネス界ではロックスターのような扱いのようです。

私も彼女と何度か話したことがありますが、とにかく声がでかい(笑)。フィンランド人は比較的おとなしい人が多いですが、声の大きさから振る舞いまで一般的なフィンランド人とはかけ離れており、正直あんなフィンランド人は初めて見ました。そんな勢い系かと思いきや、事業の話をすると、事業の細かいところまで把握しており、頭の回転も速く、「あー、これは只者じゃないな」と思いました。Woltはスタイリッシュでクールなブランドに見えるかもしれませんが、こういうスーパーな人たちがたくさんいるからこそ大きくなってきたんだと感じました。

Meshは発信に力を入れていたのか?

YouTubeでブログが取り上げられた

前回のブログを出した後、Skyland Venturesの木下慶彦さんに当該ブログをYouTubeで取り上げていただきました。「多くのスタートアップは世間に知られさえしない。そんな中、Meshがしっかり発信しているのはいいことだ。」という内容のものでした。

発信に関するMeshの基本スタンス

Meshのメンバーの中で発信癖がある人は1人もいませんでした。とにかく仕事に集中する。それが私のスタンスでもあり、会社としてのスタンスでもありました。

Coral Capital西村賢さんから頂いたアドバイス

「佐藤さんねぇ、それはわかるけど、資金調達の発表はしたほうがいいですよ。シードの資金調達の発表は、スタートアップにとって名乗りを上げる、名刺を配るようなものです。スタートアップを取り上げてくれるメディアに声をかければ載せてもらえると思いますし、採用広報にも次の資金調達にも、いろいろなところで効いてきますよ。」

これは当時Coral Capitalにいらっしゃった西村賢さんから頂いたアドバイスです。彼は「TechCrunch日本版編集長 → Googleでスタートアップ投資 → Coral Capitalパートナー」という経歴で、Coral Capitalの広報戦略も一手に担っており、傍から見ても確かな成果をあげていたように感じていました。私も西村さんのことを信頼していたので、資金調達直後の発信については彼に方針を決めていただき、言われたとおりに忠実に執行しました。ただ、まともに発信活動をしたことがなかった当時の自分にとっては経験値も不足しており、これが本当に結果に結びつくのか、正直あまりイメージは湧いていませんでした。

発信の効果はあったのか?

前回のブログでも書きましたが、西村さんの手配もあり、以下のメディアでMeshの資金調達を取り上げていただきました。

効果は目覚ましいものでした。資金調達リリース日から2日で会社HPには52件の問い合わせがあり、業種は食品卸・不動産会社・VC・銀行など様々で、事業に直接繋がる話から将来のファイナンスにも繋がりそうな話まで、会社としても有益な問い合わせを多々頂きました。

また、当時のMeshは事業を開始していないにもかかわらず、TVの取材依頼も数件入りました。さすがに事業もない中で取材を受けるのは優先順位の整理がつかずお断りしましたが、資金調達リリースの威力を感じた出来事でした。

「日経新聞に掲載された」という事実も大きかったようです。信用が付与されたことで商業用物件を借りる難易度も大幅に下がったように感じました。また、数多くの食品卸会社さまや食品・飲料メーカーさまとも契約を結ぶことができ、たしかな品揃えを実現することができました。

商品を仕入れさせていただいた食品・飲料メーカーさま、食品卸さま
商品を仕入れさせていただいた食品・飲料メーカーさま、食品卸さま

それだけでなく、「Meshに入社したい」という連絡も複数頂きました。今はMeshのCOOである前島悠人もそのうちの1人で、彼は頭がきれて業務執行力もピカイチ、それでもそんな感じは微塵も出してこない、とにかくナイスガイです。そんな仲間と巡り会えたのはMeshとして大きな財産ですし、それだけでも発信して良かったと思います。過去にこんな紹介文もポストしていました。

【メンバー紹介#4_ゆうとさん】 Meshの商品数は2,000点以上あり、それぞれに売価設定・写真の撮影・卸様との折衝・発注などの業務が発生します。そのため、一般的なスーパーでは商品カテゴリ毎に担当者がつくのですが、Meshではなんと、ゆうとさんが1人で全てを担当しており、正直常軌を逸しています。

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このように、Meshは全く名のないスタートアップでしたが、資金調達リリースは事業・将来のファイナンス・採用を強く後押ししてくれました。

一方で、発信の1番のデメリットはcopycatを作ることだと思います。無邪気に調子いい感じを表に出し、それによってcopycatが生まれ、なかったはずの競合との消耗戦が始まってしまっては本末転倒です。言うまでもありませんが、事業の特性・会社や事業のステージ・それを取り巻く環境などを考慮し、適切な広報の在り方に落とし込むべきだと思います。

App Storeで4.8点獲得。取れなかった0.2点の話

オンデマンド配達の難しさ

Meshは最高のUXを届けるために全身全霊をかけていました。なので、この4.8点という数字は、大げさではなく、Meshの執念の結果です。

それでも、どうしてもbad UXを作ってしまっていたこともありました。以下のような厳しいFBを頂くこともありました。

Meshが行っていたのはオンデマンド配達ですので、「注文が入る→即座にピッキング→そのまま即座に配達」というオペレーションで、一切の余白がありません。一つでもミスがあれば、そこからリカバリーすることはほぼ不可能です。運営側としてはそこが本当に難しいところでした。

「いか太郎」の呪い

欠品は最悪です。ペペロンチーノを作るために「パスタ・ニンニク・鷹の爪・オリーブオイル」を注文したのに、ニンニクが欠品で他のものを届けられても意味がありません。一方で、「注文入る→すぐ配達」というオペレーションである以上、欠品が起きたらリカバリーができず、欠品時の現場の絶望感はすごいものでした。

—

とある日、いつもどおりオペレーションをしていると大きな声が聞こえてきました。

「いか太郎が見つかりません!!」

Meshはgood UXを届ける執念の集団です。
まず、データベース上の在庫を確認します。在庫は3個ありました。こういう時は倉庫のどこかにあるので、倉庫にいる全員で「いか太郎」を探し始めました。アプリで配達予定時刻を表示しており、それを考えると残された時間は15分です。
5分が経過しました。まだ見つかりません。5分あれば倉庫全体をしっかり見られるので、この時点で見つからないのは相当焦ります。
残り10分なので、担当の棚を1人ずつ決めて、全ての棚を舐めるように見ました。それでも見つかりません。
残された時間は数分。担当をシャッフルして、上記のオペレーションをもう一度行いました——
結局「いか太郎」は見つかりませんでした。「データベース上には在庫あるのに欠品か…」そう観念し、私はユーザーに以下のような謝罪のメールを送りました。

お客様

先ほどご注文いただきましたオーダーID1234につきましてご連絡いたします。
大変申し訳ありませんが、「いか太郎」が欠品しております。以下のいずれかの対応を取らせていただければと思いますが、ご希望はございますでしょうか。
①「いか太郎」の分を返金し、それ以外の商品をお届けする。
②本注文をキャンセルする。

そして上記のメールを送信した数分後、倉庫内で雄叫びが聞こえました。

「あ、ありましたー!!いか太郎、ありましたーー!!!」

「いか太郎」はありました。しかし、ユーザーには前述のメールをもう送ってしまっています。「欠品したとお伝えした商品ですが、ご案内が間違っておりました」なんて連絡は聞いたことがありません。しかし、Meshはgood UXを届ける執念の集団です。私はこの直後、ユーザーに

「いか太郎」やっぱありました。

というメールを送りました。このメールは今でも社内では語り草です。

ITスタートアップというと、凄腕エンジニアがコードを書き、まるで魔法のように事業が立ち上がる、そんなスマートなイメージを持たれる方が多いかもしれません。が、、現実はもっと泥臭いものでした。

これは前回のブログ「ダークストアのスタートアップがVCから2億円調達して全て溶かした話」で書いた話です。Meshのエンジニア陣は極めて優秀で、ピカピカのソフトウェアを作っていました。それでも事業には現実のオペレーションがあり、入念に準備したつもりでもこのようなドタバタが起きてしまう、これがスタートアップのリアルです。

もちろん、この直後に商品を見つけられない問題に向き合い、すぐに打ち手を実行し、遅延率や欠品率は下がりました。App Storeの評価が4.8点でも、その裏でbad UXは発生してしまうもので、これに一つ一つ向き合うのが事業運営の実態でもあったかなと思います。

最もよく読まれたエリア属性の話

広尾と恵比寿の違い

前回のブログで最も読まれたのは「広尾と恵比寿の単価の違いに打ちのめされた」の章でした。「エリアによる差」というのは少々書きにくい話ですが、興味を持っていただけたようなのでもう少しだけ踏み込んで書いてみます。

まず、広尾と恵比寿は以下のように隣り合った場所にある町で、徒歩でも移動できる距離です。

しかし、統計を見ても住人の属性は大きく異なりますし、それはMeshのデリバリー事業の生データからも如実に見て取れるものでした。広尾はカート単価が5,000円ほどと高い一方、恵比寿のそれは広尾の半分未満でした。また、広尾は平日午前や土日の注文も多かったですが、恵比寿は平日夜の注文が多く、広尾の方が在宅時間が長い、恵比寿は仕事帰りの夕食準備の需要があるように思いました。また、どちらも生鮮食品がメインで買われつつも、個別の商品を見ていくと面白い傾向が読み取れます。

広尾でよく買われて恵比寿であまり買われない商品

  • (表の読み取り方:当該商品は広尾では恵比寿のx倍売れた)
  • —
  • ヤクルト カロリーハーフ 5本:8.9倍
  • クリスプチョコ ミルク 8個:8.3倍
  • パイの実:5.7倍
  • コアラのマーチいちご:4.6倍
  • Dole オレンジ100% 200ml:4.6倍
  • うずまきソフト 6個入:4.3倍

恵比寿でよく買われて広尾であまり買われない商品

  • (表の読み取り方:当該商品は恵比寿では広尾のx倍売れた)
  • —
  • 日清デカうま 豚キムチ:7.1倍
  • 明治ブルガリアヨーグルト プレーン 400g:5.6倍
  • 辛ラーメン カップ:4.7倍
  • ザバス ミルクプロテイン ココア:4.2倍
  • 糖質0 サラダチキン(ハーブ):3.6倍
  • オイコス 脂肪0 ストロベリー:3.1倍

広尾では子育て世帯が多く、恵比寿はもう少し若めの世帯が多いように感じます。ユーザーが頼む商品を見ながらユースケースを想像するのは運営側としても楽しかったですし、アンパンマングミなど、アンパンマン関連のお菓子をピッキングするときはほっこりした気持ちになっていました。

その他のエリアの特徴

その他のエリアの特徴は以下のような感じでした(情報はかなりデフォルメしており、エリアも一部だけ抜粋しています)。

  • 青山:平均注文単価は「高」。よく売れたカテゴリは生鮮全般、練物・佃煮、調味料。よく売れた商品はウェイパーのから揚げ粉、なると、京あげ、牛カルビ、おしゃぶり昆布など。料理をする層が多いと思われます。
  • 西麻布:平均注文単価は「高」。よく売れたカテゴリは生鮮全般、飲料、お菓子。よく売れた商品は幼児向けりんごジュース、森永マミー、ゼリーなど。子育て世帯が多いと思われます。
  • 六本木:平均注文単価は「高」。よく売れたカテゴリは茶葉・コーヒー、惣菜・弁当、レトルト、米、冷凍食品。よく売れた商品は鉄分入りののむヨーグルト(×7.9)、ヨード卵・光、豚汁の具、マッシュルームなど。料理をする層は少ないように感じます。
  • 代官山:平均注文単価は「中」。よく売れたカテゴリは麺類、パン、アイス、惣菜。よく売れた商品はメッツコーラやペプシなどの炭酸飲料、ハッピーターン、ラングドシャなど。単身〜2人世帯が多いと思われます。
  • 神泉:平均注文単価は「低」。よく売れたカテゴリは乳製品、日用品、惣菜、魚介。よく売れた商品はキムチ、糖質ゼロのサラダチキン、黒豚焼売など。単身世帯が多いと思われます。

Meshの配達エリアは以下の半径約2kmの狭いエリアでしたが、それでもこれだけ傾向の違いがあり、事業者として興味深く観察していました。

カバー写真の真相

ブログの素材探しのためにSlackを漁っているとこのような投稿を見つけました。ダジャレ云々は全く記憶にありませんが、裏話ぽい(?)のでカバー画像の素材として採用しました。

裏話ブログはここまでです。次回からはMeshの事業作り(システムやオペレーションなど)についての記事を書いていければと思います。